第15話:姫君と騎士たち・前編(その2)<機動戦士ガンダム・クレイドルエンド>
さてみなさん、今回のクレイドルエンドは、難民救助作戦に際してアルセスとリンダの両一党、そしてかつての英雄とも謳われた一人の男が現地へと向かう様を、彼らの人間ドラマを通じてお送りする運びです。それでは、ごゆっくり。
今回の制作にあたって、今話のエピソードを前後編にわたり記す運びともなりました、ひとまずかそのことにもご了承のほどを。
ちなみに前回のストーリーはひとまずここに。
第14話:姫君と騎士たち・前編
それでは本編をば、あらためてごゆっくり。
MSを駆って指定された現地に向かうアルセス一党。そんな中、先日訪れた来客について思いをはせていた。
「お久しぶりです、セイラ様」
「ええ、久しぶりね、アルセス」
この日セイラは東欧のアルセスの隠れ家“CRUB EDEN”を訪れていた。彼女の来訪をアルセスは厳かに受け入れる。
彼女が何故にこの地を訪れたか、それは“一年戦争”時、WBのオデッサへの逃避行戦にさかのぼる。
北米におけるジオン軍司令官であったガルマ=ザビを撃破するも、ジオン軍の猛攻を考慮して太平洋からアジアへの逃避行を余儀なくされた。そこに連邦最新鋭のWB部隊を追撃する、いわゆるガルマの“敵討ち部隊”が来襲。そこの司令官がかのランバ=ラルで、彼らの執拗な攻撃の末、艦内に襲撃したラルとセイラが鉢合わせとなり、自分に銃を向けたラルが動揺の末、自爆して果てた。
その後でもラルの内縁の妻といえるハモンが率いる残存部隊が続けて来襲。味方の多大な犠牲を伴いながらも殲滅するに至る。
図らずもこの二人を死に追いやった責任を感じたセイラは、戦後ラルとハモンの間に息子が産まれていて、とある夫婦に引き取られていたことを知る。
セイラは早速その家を訪ね、家族ともども保護を持ち掛けたのだが、自分たちはラルから責任を受けてアルセスを育てているのだといい、セイラの申し出を謝絶する。ちなみにその当時セイラは知らなかったが、夫婦は同じくアルセスを見守っていたジョアンのことも気にかけていて、彼が距離を置いて見守っていたのだということも承知していたのだ。
ともかくもセイラは彼の成長を見守っていたのだが、最近になってキッカたちの月での出向に際しての対峙は、当然ながら心穏やかにはいられず、いずれは話を付けねばと思い今回の彼女の出向と相成ったのだ。
隠れ家内に入ったセイラ、夫婦の遺児リッドや旧ジオン兵のジョアンをはじめ、アルセス一党が待ち構えていた。まずジョアンがセイラに恭しく一礼し、アルセスとリッド、レトーもそれに倣う。
そんなセイラ来訪の目的はアルセスにも分かっていて、それを察してかセイラもまたあえて人払いを求めず、アルセスもまたリッドたちに部屋を出るよう言い渡さず、彼ら同席での会談を執り行うことになる。
「たしかに俺たちも、キッカ大佐たちに対峙した形になりましたが」
セイラの目的はまずキッカたちと対立することをやめるよう説得するためであることはアルセスも承知していた。対してセイラ自身も話次第で追い出されることも覚悟の上で話を切りだそうとした。もっともアルセスをはじめリッドたちの誰しも追い出そうなどとは考えようとは思わなかったが。
いずれにしてもこの対談、まずセイラの切り出しを受け入れることはおおむね同意することになる。
「ともかく俺たちにしてもこれ以上キッカ大佐と対立することは本意ではありません」
「そうね」
「あと戦いそのものをやめるにしても、今少しの困難を取り除かねばなりませんし」
「それも、分かっているわ」
「これは自惚れかもしれませんが、俺たちにとっても同胞ともいえる人々の困窮は俺たちなりに手助けをせねばとも思っております」
「そういうと、思っていたわ」
と、側近からあるレポートを手渡される。それはアルセスが言った同胞~旧ジオン系軍人の親族を中心とした難民~が居住している地域を記した地図と彼らの亡命計画の詳細を記した書類であった。
「ともかくこういったことは、早めに終わらせた方がいいから。あの“箱”がどれだけの混乱を起こしたか計り知れなかっただけに」
「そうですね、我々もできるだけ力になります」
セイラは軽く頷きこの場を後にする。
後にアルセスは出立に先立ち、セイラとの会談の顛末をマツナガに話す。
「成程、アルテイシア総裁とミネバ様との会談にて、同胞の安住を中心とした戦乱の鎮静化、ですか」
「そのために未だ放浪している難民を保護しなければならない。先の会談の後で参加したあなただ、ひとまずセイラ様の意志を伝えたく思って話したが」
同志としては信頼に値するマツナガだが、セイラに対してはどうか。自身はもはやキッカはもちろんセイラ、アムロ=レイをはじめとするWB隊の面々にはもはや遺恨は抱いていないだけに。
「それに関しては小官も異存はありませぬ。先にキッカ大佐と砲火を交えましたが、これも戦士としての儀礼ということで。それからはむしろ彼女らにも協力をしたいとも小官は思っていおります」
「それはありがたい。そのためには様々な困難を除かんと思い今赴いたのだが」
「そのためにあらためて、小官も奮励いたしましょう。これもご信頼あれ」
古風だが堂々とした対応に、アルセスはもとより、ジョアンたちも安堵しつつ作戦に向けての準備にかかる。
ともあれアルセス一党は今回移動が見られる難民たちの保護にあたるのだ。
一方リンダたち、彼女らも数機のMSでアフリカのとある地点へと向かう。彼女らもまたアルセスと同じ難民保護にあたるのだ。
出撃に先立ちリンダたちはミーティングを行う。まずリンダがポケットから取り出した紙片を広げ作戦の概要を伝える。
「というわけで、先にアルベルト氏に渡されたレポートをもとに、今回の作戦を執り行うんだ」
そのレポートには、セイラがアルセスに渡したものと同じ、同胞の所在とそれを基にした亡命計画の詳細が記されていた。ちなみにアルセスに渡されたものは、アルベルトが秘密裏にセイラに手渡されたものでもあった。つまりはアルセス、リンダともに同じ資料を渡され、それによって作戦を展開するのだ。
「要は難民たちに危害を与えずに敵を倒すか、無力化するかってところですね」
「そんなところさ、ただドンパチすればいいってもんじゃないさ」
こうしてミーティングはセシルの質疑を交えて、各自の役割分担を設定を中心に執り行われ、その後各自がMSに乗り込んで、彼の地に向かう。
さらに別の場所では一機の輸送艇が地球へと降下していく。
「さて、今回の件でいろいろと手間がかかることになるかもしれないが、それだけにやらなきゃ寝起きが悪いからな。ここはやるだけやって貸しを作っておくのも悪くはないか」
その男、ジュドーも決意の表情で降下していくのだった。
| 固定リンク | 0
「ガンダム」カテゴリの記事
- 第11話:地球の魔女<機動戦士ガンダム・水星の魔女レビュー>(2022.12.27)
- 第10話:巡る思い<機動戦士ガンダム・水星の魔女レビュー>(2022.12.20)
- 第16話:姫君と騎士たち・後編(その2)<機動戦士ガンダム・クレイドルエンド>(2022.12.18)
- 第9話:あと一歩、キミに踏み出せたなら<機動戦士ガンダム・水星の魔女レビュー>(2022.12.13)
- 第8話:彼らの選択<機動戦士ガンダム・水星の魔女レビュー>(2022.11.29)
コメント