第13話:蠢くものたち(その3)<機動戦士ガンダム・クレイドルエンド>
さてみなさん、今回のクレイドルエンドは、かつて女スパイミハルの弟、今では情報屋として暗躍するジルの先導で危機を回避せんとする様を、そして現在の情勢を鑑みてのギルダスたちの決意をお送りする運びです。それでは、ごゆっくり。
ちなみに前回のストーリーはひとまずここに。
第12話:蠢くものたち
その1
その2
それでは本編をば、あらためてごゆっくり。
地下道を歩む一行。ふとギルダスが先導のジルに話しかける。
「ところでジルさん、あんたとは他人のような気がしないんですけど」
「ええ、実は僕とキッカ大佐とは縁がありまして、といってもカイ=シデンさんを挟んでのことですが」
「ああ、カイさんか・・・・・」
行く先に気を配りながらもジルはかつて一年戦争のこと、彼が知りうる限りを語り出す。
かつてWBがベルファストに寄港した際、彼の姉、ミハルがジオンの諜報員として潜入するも、その先で知り合ったカイに協力する形となり、ジャブローでの移動時の戦火に巻き込まれ命を落としたいきさつがあった。
はじめジルたちもミハルの死のこともあってかカイには恨みすら覚えたが、セイラを通じて財団の援助とともにカイも親身になって気遣ってくれたこともあり、次第に彼の力になろうとも思い始め、表向きは小さな商売を営みつつも彼なりに情報活動を裏で行うことになっていった。
「今回このベルファストにおいて不穏な動きありとの情報を入手し、何とか伝えたいともいましたが、実際その騒乱に巻き込まれ、この地下道に逃げ込んだ先にみなさんと出くわした次第です」
「そいつはラッキーだなあ、なんせ現役の軍人がいるから」
「そいつはどうかな」
友人の安堵をギルはたしなめつつ、銃片手に先へと進む。
「相手がどう出るかが分からないし、俺もどうなるか分かったもんじゃない。ともかくみんなの命に責任があるのには変わりないさ。そいつが軍人の使命って奴だから」
そのうち、先に人影を認め、ジルがテーザーを構え、ギルダスも改めて銃を手に踏み出す。しかしその相手はギルダスたちを認めるや、
「待て、撃つな、連邦軍の者だったら降伏する」
「どういうことだ、そちらはいわゆるテロリストじゃないのか」
「お、俺は単なるバイヤーだ。武器の件で交渉が決裂してドンパチになったところ、ここに逃げ込んでこのザマだ」
「なろほど、そういうことか」
ギルダスのうなずきとともにウィルが男の身辺を調べ、さしあたり武器になるナイフを押収してから手を後ろに組ませつつ前を歩かせつつ出口へと向かう。
そこにはすでに警察に身柄を確保された密売人たちと、現場に派遣されたトーレスがいた。
「・・・ご協力感謝いたします・・・・・」
男を警官に引き渡し、連行された後でギルダスはあらためてトーレスに謝する。
「お騒がせしました、申し訳ありません」
「いやいや、休暇中にとんだ災難だったな」
そこに友人たちが控えめながらも割って入る。
「もしかしてグリプス戦役の英雄、トーレス大尉じゃないですか」
「いかにも自分はトーレスだが、英雄というのは少し違うな。君たちがどう評するかは別として、あの戦いで仲間をずいぶん失ったからな」
「はあ・・・はっ!」
彼らもトーレスの心情に感じ入りつつ応える。
そこに南仏での任務を終え、基地に帰る途上のキッカたちも合流した。
「何か騒がしいと思ったら、一体どういうことかしらトーレスさん」
「ああ、キッカか、実は・・・・・」
そこでトーレスが、この街で起こったことを説明する。武器の横流しの決裂にての騒動を受け、現地警察から基地内のTWにも報せが届き、ひとまずトーレスが現地に向かうことになったのだ。
「なるほど、これは災難だったわね。でも事態が事態だから着実な対処も必要だったかしら」
「はっ、申し訳ありません」
「ええ、無事でよかったわ」
ギルダスの謝辞をキッカがうける中、そこに友人たちが割って入る。
「あの、キッカ大佐ですね、あのWB最後の・・・・・」
「おいおい!」
ギルダスがたしなめようとするもそれを抑え、キッカは応える。
「ええ、皆さんはギルダス少尉のお友だちですね、私からもお騒がせして申し訳ありません。ところで失礼ながら南仏で財団の孤児院の子供たちと同じに感じられましたが」
「恐縮です。自分たちもそれなり子供たちの力になろうと思っておりましたが」
ということで、トーレスやギルダスを交え、談笑に華を咲かせつつも、事態の収拾を受け、キッカたちはTWへと帰還後につくのだ。
「それじゃあ、元気でな」代表でギルダスが告げる。
「ああ、俺たちも信じてるから」と仲間たちも見送るのだった。
そしてジルも、妹のミリーと数人の男女が駆けつける。彼らもジルたちの情報活動を支援するメンバーたちで、無論戦乱の収束のために日々活動続けている。
「行ってしまったな」
「ええ、あの人たちもこれから忙しくなるのね、もちろん私たちもそれなり忙しくなるけれど」
ミリーの言葉に他のメンバー、中には二人と付き合っている者もいて、彼らもそれに頷いた。そこに友人たちが声を掛ける。
「あの、俺たちも力添えしていいでしょうか」
「ええ、あまり無理をなさらずに。こういうのも綺麗事ではすまないですから」
というわけで、ジルたち兄妹にささやかながら同志が加わることになる。この後も連邦有志内外での情報活動を続け、連邦弱体後に新たな秩序を形成する萌芽ともなるのだが。
「ということで現在の状況もただならぬことであるのには変わりはないけれど」
「そうだね、一つずつ摘み取るしかないんだね」
戻ってTWの食堂、今までの事項を鑑みてこれからの対策を練らんとする。そこにウィルが入る。
「次の任務は中米の武装組織の調査だというよ。そこにも多数の戦力を有してるから」
「とりあえず今回も治安維持だ。なるべく楽に仕事をしたいけど、これは中佐のお知恵次第だからなあ」
「それは最善を尽くすよ。俺としても全能というわけじゃないが」
「はっ、中佐!」
割って入ったノックスに三人が敬礼とともに迎え、食事を交えての談笑がてらの作戦会議を開くのだった。
中米にての武装組織攻略にかかるキッカたち特務隊。
そこには忘れられた英雄が孤軍奮闘していた。彼の危機にキッカたち、そして彼の娘は。
次回、機動戦士ガンダム・クレイドルエンド
父と娘と
君は、生き延びた先に何を見るのか。
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