第9話:リッド奮戦(その1)<機動戦士ガンダム・クレイドルエンド>
さてみなさん、今回のクレイドルエンドは、セイラとの会談に先立ちアフリカの争乱の平定を要請され次の戦場へと向かうキッカたち。その一方でアルセス一派の新たなる力を得るいきさつを描く運びとなります。それでは、ごゆっくり。
ちなみに前回までのストーリーはひとまずここに。
イントロダクション
第1話:ホワイトベース最後の勇者
(その1)
(その2)
(その3)
第2話:生きるということ
(その1)
(その2)
(その3)
第3話:継ぐものたち
(その1)
(その2)
(その3)
第4話:月で待つもの
(その1)
(その2)
(その3)
第5話:ガンダム、行きます!
(その1)
(その2)
(その3)
第6話:忘れられた地で
(その1)
(その2)
(その3)
第7話:古き友来たる
(その1)
(その2)
(その3)
第8話:老兵は語らず
(その1)
(その2)
(その3)
それでは本編をば、あらためてごゆっくり。
月のアナハイム本社、その近くのカフェにてカミーユとニナ、そしてアルが会談を行っていた。その内容がアルのフロンティア社が手掛けたスラスター関連であった。
もともとMSの開発について一年戦争時代の連邦、ジオン間のMS開発会社の競合からそれ以降のアナハイムのほぼ独占状態の中傘下の各社が水面下で研究開発の競争を繰り広げていた。
かくいうアルも苦学の末、月で小さな整備工場を開き、その手際の良さをカミーユに見初められ、やがてはニナ、そしてウォンらと知己になり、現在のMS開発に協力することとにもなった。その一方でかつてサイド6にての事件を体験譚として著した著書から反戦主義者とも目されるが、先のカミーユ達、そしてキッカとも、傍目から見れば奇妙な関係を築くにいたったのだ。
さておき会談もある程度進み、新性能の従来型MSについて話が進む。これは先のキッカとアルセスの会戦を居合わせたバナージがカミーユに伝えた事案から開かれたものだったが。
「やはり君たちの他にも新型のスラスターの研究が進められたというのか」
「たしかにそのようです。実際問題で僕の社がリードをする形となりますが。これはアナハイムの力添えがあってこそです。もし他の競合社にそれなりの資金と技術があれば」
「フロンティア以上のスラスターの開発、ひいては新型のMS開発も困難ではないということですね」
カフェの一室でカミーユ達が肩を並べて話し合う。その周りをアナハイムのエージェントが守りを固めているが。
「しかし他社はともかく、アナハイムの方でも新型のMS開発が進められている。もっとも僕に言わせればスラスター頼りのものだが」
「懸念すべきはサイコフレーム関連のものですね。フェネクスの件もあって非人道的なニュータイプの研究はほとんど凍結されました。しかしその分」
「スラスターの強化につながりましたか。今更いえばいたずらに性能を強化しても意味がないと思いますが」
「まったくその通りだ。今更ながら俺も戦いたくて戦ったわけじゃなく、これ以上の戦いも好ましくないのには変わりはない。やはり頼みの綱はミネバ姫とダイクン女史、そしてキッカ大佐だな」
カミーユの言葉で一応の結論が導かれた。それにニナが応える。
「そうですね、今はあの人たちに任せましょう。それに・・・・・」
ニナの言葉が途切れるも、二人が沈黙で応答する。かくして会談を終え席を離れる。
TWはオデッサを発ち、現在北アフリカの大地を飛んでいる。
先に基地の司令が病室を訪れ、反乱部隊の鎮圧を要請してきたのだ。たしかにキッカとしても今後の会談のため、セイラのもとを訪れなければならなかったのだが。大局的には急ぎの用でもないと判断し、傍らにいた財団のエージェントたる“伍長”の了承を得てこの場を後にする。
「それでは、こちらも総裁に伝えておきます」
「ええ、こちらもよろしくお願いします」
「体には気を付けろよ、もちろん俺も気を付けるから」
「はい、そうですね」
といったところで次なる任務にあたるキッカ。クムたちの会話を交えて帰路につく。
「少し残念でしたね」
「そうかしら、これも任務といえばそうだけど、たしかにセイラさんの件もあまりのんびり構えられないけどね」
アストライア財団の総裁として本名のアルテイシアを名乗っているが、キッカにとっては“セイラ・マス”の名で通していた。そんな彼女にクムも想いを馳せつつ、つい言葉をもらす。
「それにしても先の戦乱でセイラさんも肩身が狭い想いをしていますよね・・・・・」
「そうね、たしかにあれ以来行動を控えていたけれど財団も陣容が厚いからそれなり動いているのよ」
「やはり・・・“あの人”が関係、している、でしょうか」
「・・・・・そんなところねえ」
クムの言葉が詰まり気味になったのは、やはりセイラ:アルテイシアの兄キャスバル:シャアあるいはクワトロのことだろうとキッカも察したのだ。
「まあいずれにしても、今の任務をこなしてから臨むことにしましょう。ここは早速先輩やトーレスさんにも連絡を」
「ええ、そうね」
ライエルの言葉にキッカとクムが頷き、TWへと向かう。
変わってアルカディアの“CLUB EDEN”
手痛い敗北を喫しながら、キッカの特務隊との対戦で高評価を得て、アルセス一党の装備の充実、ことに大破したザクの代わりのMSを配備することとなる。
「僕の新しいMSをくれるというけど、どんなものになるのかな」
率直なリッドの問いに、スポンサーのエージェントが傍らの端末を見せる。
「こういったものになりますが」
端末のディスプレイに映し出されたのは、リッドはともかくアルセスですら見知っている造形のMSだった。それを見てリッドは一言、
「足ないじゃん」
失望というにはそっけない言のリッドに、ひとまずはなだめるようにアルセスが告げる。
「たしかに当時は未完成品だったが、今と製造スペックから違うからな。これでも十分に完成品なんだ」
「本来は宇宙戦用に開発されたものでしたが、大気圏内でも十分に活動できるように当方でも調整いたしました」
「でも、これって最近同じような名前の奴がいたよね」
「あのバケモノとは一味も二味も違うさ。先のア・バオア・クー戦と同じようにこいつで大空を縦横無尽に飛び回れる」
むしろリッドを励ますように告げるが、当のリッドもひとまずは冷静に応える。
「それもそうだけど、ひとまずは兄貴の言うことには従うよ。それで、次どうするの」
先の宇宙での戦闘もそうだったが、こういう新装備の受理には何やらの依頼が伴うが常なのだ。
「あ、いえ、アルセス氏がおっしゃった通り、大空を駆け巡るだけで結構です。文字通り大気圏内での飛行性能を測りたいのです」
「ふーん、そうなんだ。まあ兄貴の手前もあるけど僕もそう文句はないよ。どんな形でもMSに乗るのは楽しいし」
「うん、リッドがよければいいが、俺としてもこの手のタイプとしてはやはり旧型だからな。何せこれを発展させたものが最近でも暴れ回ったじゃないか」
実はアルセスが言っていたのは、トリントンでジオン残党軍を押し返したバイアランのことである。たしかに今回のMS、ジオングもそれに比べればいまいち見劣りの感もあるのだが。
しかしこの場を取りまとめんとエージェントに告げる。
「とにかくだ、受け取ったからには俺たちも仕事はこなす。マイツァー氏にそう伝えてくれ」
ブッホのエージェントもそれに頷き、続いてリッドにも告げる。
「今回の任務の一切はお前に任せるが、くれぐれも無理はするな」
「うん」
リッドもしっかりと応える。こうしてリッドによる、受領した新装備のMSジオングでの機動及び飛行訓練が執り行われることになるのだが。
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