第8話:老兵は語らず(その3)<機動戦士ガンダム・クレイドルエンド>
さてみなさん、今回のクレイドルエンドは、成り行き対することとなったキッカとマツナガ。その勝負の行方と戦後の処理に奔走する人の様をお送りできればと思い今回の記事といたしました。それでは、ごゆっくり。
ちなみに前回のストーリーはひとまずここに。
第8話:老兵は語らず
その2
それでは本編をば、あらためてごゆっくり。
ジオン残党軍、というより元ジオン軍兵士の子弟の愚連隊たちによるオデッサ基地の襲撃事件は、それを止めんとしたシン=マツナガ元大尉の介入の後、なし崩し的にキッカとの一機討ちという事態に陥った。傍から見れば単なる私戦に過ぎなかったが、何せ相手が相手、いずれかが挑むでもなく成り行き上そうなったのだ。かくしてキッカのニュープラスとマツナガのザクⅢとの対戦が始まる。
はじめ両者ともフィールドへと歩み、その周りをクムたちが囲む。万が一キッカが不利な状況になればいつでも援護できるように。それこそキッカの敗北が決まっていたが。
(まあ、はじめから負けを意識しても意味はないけれど・・・・・)
まずは両機ともビームサーベル・ビームアクスを繰り出し、剣撃戦に持ち込む。はじめ形式に則り、次第に相手に実力を図りつつ自身の技量で勝負する。実際問題銃撃戦に持ち込まんとすると周囲の施設の被害を被ってしまう。それはマツナガも同じで無駄な被害は出したくないのが正直なところ。
それでも勝負はいたって真剣そのもの老練なマツナガに対しキッカも果敢に受け返す。
ちなみにいえば最新鋭のニュープラスに対し、ザクⅢは第一次ネオジオン抗争の頃、すなわち10数年前の機体だが、その後のチューンナップとカスタマイズで現在にも通用する性能となっていた。
勝負は10分以上にわたって続けられ、お互い互角に仕合が運んだかに見える。たしかに機体の性能は全性能を解放していないとはいえニュープラスが上だが、経験と年季は圧倒的にマツナガが上だろう、しかしマツナガに言わせれば「機体の性能を引き出せるのもパイロットの能力だ」という。
「・・・見事です・・・・・!」
キッカも思わず感嘆の声を発する。
「いや、貴官の実力もこれほどとは、やはり貴官も戦士だったか」
「身に余る、光栄ですね・・・・・」
そして再び剣撃を繰り広げる。しかし争乱そのものはかたが付いたが、この一戦は未だ続いている。誰もが酔狂と知っていながらこれを見守らずにはいられない。しかしこんな戦いもいつかは終わる。しかし問題はその終わり方だ。どちらかが倒れれば済むことだが、それはあまりにも単純すぎ、傷も小さからぬものだろう。しかしその想いすらも目の前の勝負で描き消えるかに見えた。
その時、銃砲音が鳴り響く。それにいち早く反応したのはTWのトーレスだった。
「今、誰が撃った!?」
周囲を見渡してもクムやアレンたちは一歩も動かなかったことが分かった。そのうち撃ったのは基地から離れた場所、遠方からの信号弾と判明した。おそらく今回の関係者(らしきもの)が頃合いを見計らって撃ったものだろう。
実際ニュープラスもザクⅢもお互いの腹をサーベルとアクスでとらえたが、一瞬寸止めでとどまった。これが信号弾と前後したのは幾人か気付いたのだろうか。ともかくも2機は互いの刃を収めてから間合いを放していき、ついにはマツナガが基地を後にせんとした。
「ここの勝負はひとまず預けよう。貴官も小官も未だやるべきことがある。この戦いで命を落とすはあまりに愚劣。それから同胞諸君、貴官らを引き止めるが本来の目的なれどこれも遅きに失したのも事実、ここは潔く退くとしよう。恨みに思われるは勝手なれど悪く思われるな」
といってマツナガのザクⅢは去っていく。その様を捕まった反乱兵の全ては敬礼で送り、ついで確保した基地兵士たちもそれに倣う。そしてキッカたちもコックピットから身を乗り出し、敬礼で送るのだった。しかし、
「それにしても、誰が信号弾を揚げたというの」
と、キッカをはじめ、誰しもが軽い疑問を覚えつつ。
その信号弾が揚がった地点、そこには1機のドムが立っていた。アルセス一派のレトーだった。
「しかし兄貴の指示で信号弾を揚げたはいいけど、連中無事逃げられたかなあ。うん、あれは」
レトーが立っていた高台のふもと、何故か白にリペイントされている1機のドムが基地に向かっているではないか。
「あれ、白いドムって珍しいな、誰かは知らないけどやっぱドムは黒だぜ・・・・・」
見ればこの白いドムは白旗らしき布を背部サーベルの柄に括り付けて、こちらに気付いたか、後ろを振り返りつつ敬礼で去っていくではないか。それにはレトーも敬礼で応える。
「あれって何やら交渉のために行くのかな、そういやあの白旗に何か描かれてたけど。あれはナントカ財団の紋章だったな。おっと長居は無用だった、早いとこ帰らないとな」
と、レトーもこの場を後にする。後にあの白いドムに搭乗していたのはアストライア財団のエージェントだと判明するのだが。
戻ってオデッサ基地。確保された襲撃犯たちは今回の件での取り調べを受けていた。
「・・・俺たちはかつてのジオン兵の子弟で、親父たちの機体を今の技術で補修し、それなりの装備で主に故郷の警護に当たってきたんだ。
たしかにジオンの自治権の放棄に関してはある程度の想いもある。
今回の依頼もある指示からの依頼だった。それが誰かは先方が明かさなかったから分からずじまいだったが、前金を受け取ったので後戻りができず今回の事態になったわけだ。
家族にはその前金でいくらか潤ったので問題はないから、俺たちはいかなる刑に服しようが構わない・・・・・」
「うむ、長くても1年だが、そういえば財団からエージェントが来て今回の事態にいくらかの保証をするという。しばらくここでの収監の後君たちの身柄を引き受けることになるが・・・・・」
「ああ、いずれにせよ、世話になるよ」
件の白いドムに搭乗したアストライア財団のエージェントは、ここ最近の争乱、ことにトリントンの惨劇を受け頻発する旧ジオン軍残党の争乱に対しこれ以上の妄動を食い止めんとすべく近年各地を奔走していたのだ。そんな“彼女たち”はキッカにとってもカイにとっても知らぬ顔ではなかったのだ。
「やっぱりあの人は」
「知ってるんですか、大佐」
クムの問いにわずかな記憶から“彼女”のことを思い出す。
「やはり戦後にセイラさんが引き取ってから今でもそこで働いているんだ。やっぱり今回の件で来たのかもしれない。いずれにしても」
クムに頷きで応じつつ、ブリッジを後にする。
「私自身も赴かなければいけないわね」
続いてノックスもライエルに同じ仕草でキッカに同行させる。
そのエージェントについて、今の時点では詳細は差し控えることにするが、かつてのア・バオア・クー戦において何らかの形でホワイトベースに攻撃を加えた後で脱出。仲間と合流したのはいいが連邦軍に拿捕される形でそのまま捕虜にされるも、数か月の勾留の末、アストライア財団を創設したセイラに保護され、そのままそこで働くことになり今に至ったのだ。
このようにキッカ、そして病床のカイにも因縁がある彼女だが、彼女もまた本当の意味での戦乱終結のために働いているので。その縁で直接会おうとするのだ。もっともキッカの立場上副官たるライエルとクムを伴ってだが。
こうして交渉を済ませ、今だ病床にいるカイのもとを訪れた彼女。そんな二人が待ち構える病室を、キッカが訪れてある程度の旧交を温めつつ。セイラの親書を受け取るのだった。
セイラのもとへ向かわんとするその前に、新たな任務の要請を受け南へと向かうキッカたちのもと、再びかつての好敵手たる彼らが立ちはだかる。そんな中かつての名の姿もあり、それを駆るのは未だあどけなき少年だった。
次回、機動戦士ガンダム・クレイドルエンド
『リッド奮戦』
君は、生き延びた先に何を見るのか。
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