第6話:忘れられた地で(その1)<機動戦士ガンダム・クレイドルエンド>
さてみなさん、今回のクレイドルエンドは、いよいよ地球圏に降り立ったキッカたち。降り立った先は日本。そこは長年の戦乱で疲弊しつつ人々が細々と生活していた。そんな日本の東京で暴れ回る集団との対峙の末に重要な局面を迎えるストーリーをお送りする運びです。はたしてその帰結やいかにといったところで、それでは、ごゆっくり。
ちなみに前回のストーリーはひとまずここに。
イントロダクション
第1話:ホワイトベース最後の勇者
(その1)
(その2)
(その3)
第2話:生きるということ
(その1)
(その2)
(その3)
第3話:継ぐものたち
(その1)
(その2)
(その3)
第4話:月で待つもの
(その1)
(その2)
(その3)
第5話:ガンダム、行きます!
(その1)
(その2)
(その3)
それでは本編をば、あらためてごゆっくり。
日本
宇宙世紀より地球連邦の成立以来、かつては埋蔵資源が乏しい反面経済力で繁栄していたが、時代が進むにつれ、国力も停滞していった。
それでもかつての1年戦争にて大して被害は受けてはおらず、それ以降も比較的治安も安定しており、それなりに安全な場所と言われ、連邦軍の駐留も必要最小限に抑えられていた。
とはいえここ最近の動乱を受けて、最近では関東地方を中心に何かと物騒になっていった。
横浜の繁華街、少しさびれた感もあれ、公私の交易もありそれなり潤ってもいた。そこのとあるバーで一人の女性がカウンターでブランデーのグラスを傾けていた。
「そういや、あのキッカ大佐が月から新型のMSをひっさげて不穏分子を片付けるって話じゃないか」
「そいつはいいな、ここ最近なにかと物騒でいけねえから、あらかた片付けてもらって静かになれればいいがな」
「そう手放しじゃ喜べねえぜ、平和になったらなったでまた連邦のお偉いさんが市民を絞めつけりゃまた同じことの繰り返しだ」
「まったくそんな連中も片付けりゃいいのによ」
少し陰気な噂話が流れる中、女性の隣に座っていた男がグラスのビールを一気にあおった後でおつりはいいと紙幣をカウンターに出して酒場を後にする。その際件の客に軽く語り掛けるように「障らぬ神に祟りなしだ」とつぶやく。対して男のことを知っているのか、客も重い沈黙で見送るのだった。
そしてそれらを女性もゆっくりブランデーを傾けつつ微笑で見送るのだった。
その後女性もバーを出てから傍らのバイクで街を後にする。しかしそれをなぜかさっきの男、レツが見守るのだった。
そんなやり取りと前後してタイニーウィングは地球へと降り立ち、日本、川崎にある連邦軍日本支部の基地に停泊する。日本支部は先述の事情から武装等の配備はごく少数なこともあり、補給関連は艦の燃料や生活物資等を中心とし2、3日の停泊を予定していた。
さしあたってライエル、クムを伴って基地の司令部にあいさつのため出向する。
基地の司令官はキッカにしては知らぬ顔ではなかった。82年の出雲での旅行にてジオン残党のウラガン小隊からの護衛にあたったエージェントの一員でもあったのだ。
「久しぶりですな、キッカ大佐」
「恐れ入ります、准将どの、当艦の補給に関してできうる限り」
「はい、それに関しましては・・・・・」司令官の背に軽い緊張が走る。キッカの警戒の眼差しを感じていたのだ。
実はそのエージェントについてはキッカも快く思ってはいなかった。クムとライエルはあずかり知らぬがかつての襲撃ではたしかに助けとなったが、グリプス戦役にてはティターンズと手を組んで自分たちに牙を剥かないかと内心怯えてもいたのだ。結局それは杞憂―当時のエージェントが協力を拒否したこともあり―に終わった。加えて戦役においてカツ、ハヤトが戦死したことでの同情もあったのだが。
「・・・ともかく我々も、今更ながらできうる限りお力添えをさせていただきます」
「ええ、お願いします」
水面下の駆け引きもひとまずは収まって、司令官がとある問題を耳にする。
「実は、この界隈で一つ問題がありまして」
「と、言いますと」
「ここ最近、というよりも一年戦争以来の軍備関連、ことにMSについては民間への払い下げのものもありまして、それらを使ってこの地域では東京を中心にいろいろと悪さをしている輩がありまして」
「東京といえば、首都機能が失われて大半のビル群が廃棄されているというじゃないですか。そこをテロリストが根城にしていると」
「あ、いえ、テロリストというほど大それた連中ではなく、ただ暴れ回るだけの、いわゆる不良どもの集団でして」
「不良ですか、潜伏したジオンやティターンズの残党じゃなくて」
「少尉、民間でもMSの運用はなされていますよ。ただそれにはそれなりの許可がいりまして」
クムが意見を述べ、ライエルがたしなめつつそれに応える。その上でキッカが司令官の要件について述べる。
「彼らは違法のMS乗りってところね。それの取り締まりに我々も協力をせよと、申されますか」
「まあ、ありていに言えば。近隣の基地に応援を要請しているのですが、最近の情勢と現地の情勢も小規模ということもあり、なかなかに」
「ずいぶんお粗末なのね、せめてあのハリボテでもよこせばいいのに」
苦々しく応えるキッカに、クムもやけに心配そうにのぞき込む。
「あ、それはこっちのことだから。これも私たちで対応できればそうしたことに越したことはないわね」
クムをたしなめてから、あらためて司令官に了承を告げる。
「ともかく我々としても微力を尽くします」
「はい、できうる限りの情報を提供いたします」
というわけで、キッカの特務隊は東京に巣食う不良グループの取り締まりの協力を受けることになる。
司令部を後にして、TWに戻るキッカたち。そこでも艦の整備にあたっている者たちがいた。ただキッカが違和感を覚えたのは、整備にあたっていた者たちだった。
「あれって、民間の技師のようね」
「はい、たしか川崎の造船会社の社員で、ここの事情から大きな艦を整備する際には許可を受けた民間の技師を使う慣習となっています」
キッカの言葉にライエルが応える。続いてクムも軽く言葉をかける。
「そういえば造船技師といえば」
「うん、そこで働いているけど。今は立場が立場だからね」
「・・・はい、申し訳ありません」
「ううん、ありがとう」
そんなキッカとクムのやり取りをライエルも快く見守る。しかし待ち受ける任務はささやかながらも過酷なるものだった。
その造船会社に勤めていたレツ、船の設計を一旦切り上げ、屋上で羽を伸ばしていたその時、遠くから何かの振動音が響く。
「また東京が荒れているな、大事にならなきゃいいけど。特に今はキッカがいるからな、あまり手荒にしてくれるなよ」
遠目で見守りつつ話しかけてから、また屋内に入っていく。ひとまずは新たなジュピトリス級輸送艦の設計を完成させるために。
そしてその東京からほど遠くない場所で、先日レツとバーで居合わせたとある女性もまた。
「結構集まっているようだね、こいつは面白くなってきた」
と、ひとまず彼女もまた事の趨勢を見守らんとしていたのだが。
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