第5話:ガンダム、行きます!(その3)<機動戦士ガンダム・クレイドルエンド>
さてみなさん、今回のクレイドルエンドは、いよいよ対峙するキッカの特務部隊とアルセス一党。偶然の出会いからの激闘が今後の展開上状何をもたらすのかといったストーリーをお送りする運びです。それでは、ごゆっくり。
ちなみに前回のストーリーはひとまずここに。
第5話:ガンダム、行きます!
その2
それでは本編をば、あらためてごゆっくり。
ランバ=ラルといえば、かつてデギン・ゾド・ザビとともにジオン・ズム・ダイクンを支えたジンバ=ラルの息子であり自身もジオン公国軍のエースパイロットとして、
そしてかつての1年戦争、ホワイトベースが北米からオデッサへと向かう途上、敵味方とともに深い傷を負った激闘を繰り広げたことでもキッカ自身の記憶にも刻まれた。
今そこにいるアルセスという男、ランバ=ラルの息子と名乗っている。養母フラウから聞き及んだ話には最後の戦いを指揮したクラウレ=ハモンがラルの愛人だということで、彼女が男児を産み今に至ったといっても何ら不思議ではない。
「たしかに私もおまけといってもホワイトベースの乗組員で、最後の勇者という御大層な呼び名を貰ったけど、その縁からやはりお父様のかたき討ちってことかしら」
皮肉交じりのキッカの言に、アルセスも半ば不敵に応える。
「聡明なる貴女らしからぬ言葉だ。戦場で敵討ちを求めるはやはり無粋。俺もランバ=ラルの息子ならば、この時代、もはや戦乱から縁薄い時代に戦いの場を得ることに悦びを覚えている。ご迷惑だろうがその悦びに付き合っていただこうか」
「そういうことなら、私も付き合えるかしら」
そのやり取りから不思議と敵意は沸いてこない。しかし任務以前に戦わなければならないというある意味闘志程には沸いてこない、それでいてある種の高揚感をも覚え不思議とサーベルを握った機体、それを操る操縦桿にわずかな力がこもる。
一方、ティクバのケンプファーはライエルのジOと対峙していた。
「まさか追い付いちゃったなんて、見た目ごっつい感じだけど結構素早いな」
「乗っているのは子供のようですね、ここは手加減するべきですか。でもそういえば、ミウさんからのデータからすれば、彼らの機体はおそらく外見は旧型でも内部性能は今とさほど変わりはないとか。やはりここは・・・・・」
対するライエルもあくまでサーベルで構える敵に対し、隠し腕を含めて4本のサーベルで立ち向かう。
くしくもサーベルでの打ち合いとなり、はじめから及び腰のケンプファーに対し、ジOも果敢に攻めている。厳密にいえばジOの攻めをケンプファーがなんとか受け流し続けているといったほうがいい。
「まさか、手加減しているのかな、だったら逃げ、いやそうもいかないよね。隊長もまだ頑張っていそうだから」
「これほど手馴れているなんて、たしかに倒すまではいかないまでも。いずれ退いてくれればいいけど」
こうしてお互いの思惑が駆け引きとなり対峙は続けられた。やはりその勇戦も及ばず片手片足を切り落とされ徐々に追い詰められる。
しかしティクバの脳裏に何やらの予感が走り、ジOの攻勢が引いたところを見計らい、戦線を離脱する。
「ふう、諦めてくれましたか」
と、ライエルもひとまず安どの言を述べる。
少し時を遡り、アルセスが散開を指示した直後のこと、
「ジョアンさん、こちらに3機追ってくるっス」
「うむ、ティクバとリッドも追われている。危険だがこちらもさらに分かれよう」
「りょ、了解っす」
一方でギルダスたちも、
「やっぱり分かれるか、俺はドムの方を当たる、お前たちはゲルググの方を頼む」
「了解!」
ということで2機が分かれ、うまい具合にというべきかジョアンの方を2機のリ・ガズイが追っていく。
「まさかドムにしちゃ早すぎるな。やっぱ中身が違うからかな」
そうギルダスが感慨する。たしかにリ・ガズイの速力なら追い付けないことはないが、対するドムも追われては避け、避けては追われるの繰り返しでの逃走劇が繰り返される。
「やっぱ逃げるだけでちょっと卑怯だよな、これも兵法の一つだろうけど、それ聞いたらジョアンのおっさんに怒られちゃうかな」
一方でジョアンの方も、
「うまく2機が追ってくれたか、ここは俺が踏み止まり、あいつらが逃げてくれればいいが」
ともあれそれぞれの対峙もまた繰り広げられた。
そしてリッドはクムのサザビーと対峙してしまった。まずはサーベルでの打ち合いから始まり、勇戦のうちに相手のサザビーがファンネルを展開する。一方クムの方もその時点で相手の素性を知ることになる。
「あなた、子供!?」
「子供で悪いかよ!」
と、再びリッドのザクが飛び掛かる。対してクムの方も流石に子供と分かり、本気で撃つわけにはいかなく、威嚇のつもりで縦横無尽にファンネルを飛び交わせザクに襲いかかる。それをザクは始めマシンガンで、それがはたき落とされればトマホークでファンネルを打ち落とす。その際に片腕片足が撃ち落とされてもなお戦意を失わない。
「よってたがってビームで撃ちまくるなんてずるいじゃないか!」
3、4基のファンネルを打ち落とし、ついにザクはサザビーに肉薄する。
「だったら引っ込んでなさい、子供が戦場に立つべきじゃないわよ!」
すかさずサザビーはシールドをザクに叩きつける。リッドも防御を取るが、装甲の差かザクは吹き飛ばされる。そこにすかさずティクバのケンプファーが寄ってきた。リッドのピンチを感じ取りリッドのもとに駆け付けたのだ。
「大丈夫、リッド」
「あ、うん、でも、サクが壊れちゃった」
中破のザクをケンプファーが受け止めそれを見届けてからクムも身構えつつ戦闘態勢を解く。
「また負けちゃうのは悔しいけど、次の機会で挽回すればいいよ」
「うん」とリッドは応え、ザクとケンプファーの2機はクムのもとを去っていく。クムも安どからか深いため息をつきながらも、一つの懸念を思い浮かべる。
「そういえば、大佐も誰か一人探すよう依頼されたけど、まさか・・・・・」
その一方で彼らの交戦を遠目で見ていた1基のMS:シルヴァ・パレトがいた。そのパイロットがふと嘆息交じりに言葉を漏らす。
「・・・ティクバ・・・・・」
ややあってギルダスとレトーの逃走劇はなおも続けられていたが、そこにジョアンの通信が入る。
「レトー、リッドたちも離脱した。お前も戻れ」
「え、そうなのか、だったら」
と、ドムのバーニアを最大限に吹かせてこの場を脱出せんとする。
「こうなったらバーニアが焼き切れるまで逃げ切ってやる」
と、ドムは一気に離れていく。
「あ、待て」と、それをさらに追わんとするギルダスにライエルが近づいてきた。
「ギルダス少尉、勝負は決しました、深追いはいけません」
「あ、はっ!」
ライエルに諭され。ギルダスも追撃をやめる。そこにアレンたちも近づいてきた。
「すみません、ゲルググの方も取り逃がしました」
「どうやらあちらの方が一日の長がありましたね。それより大佐も心配ですが、ここはクム少尉に任せましょう」
「はっ」
と、4機は帰投の準備を始める。
一方で帰投するジョアンとレトーも、
「結局ロクに戦わずに逃げちゃったなあ」
「お前もアルセス様の子分だ、時には引き際も大事だ。なればこそ次こそアルセス様の役に立て」
「うん・・・・・」
とジョアンに諭されるレトーも待機していたシャトルへと急ぐ。
そしてニュープラスとガーベラ。一進一退の剣劇もいつ果てるとも知らず繰り広げられるかに見えたが、
「・・・どうやらここまでのようだ」
一旦間合いを取った後、ゲルググの照明弾に気付き、アルセスもまたガンダムから遠ざかっていく。
「この程度の性能でここまでついていければ良しとするか、今回は俺の負けとしよう、次の機会まで壮健なれ」
去り行くガーベラを見やりつつ、キッカは一言。
「私の勝ち、違うわね、こいつは完全に、私の負け・・・・・」
言い変えれば性能に守られての仕合運びといったところであった。
そこにクムのサザビーが近付いてくる。
「大佐!」
「クム、無事だったのね」
「もう、また無茶なことしたんでしょう」
「ごめん」
口調としてはお互いの無事を喜び合っているようだ。
「ああ、そういえばみんなは」
『・・・大佐、ご無事ですか?』
そこにライエルのジOから通信が入る。
「うん、ライエル、そっちはどう?」
『はい、僕と、ギルダス、ウィル、アレン、全員無事です。これより帰還します』
「了解」
と、キッカとクムも帰還の途に就く。そこでキッカも思わず独語する。
「やはりシャアやシロッコみたいにはいかないのね」
ちなみにシロッコは特務将校としては先輩にあたる。
「いやいや、今更弱音はなしよ、キッカ=コバヤシ」
あらためて気を引き締めんとするキッカだった。
一方でジョアンたちに合流したアルセスも。
「あ、おかえり、兄貴」
「アルセス様、ご無事で」
「ああ、大丈夫か、リッド、ティクバ」
「うん、でもザクとケンプファーを壊しちゃった」
「ああ、まさかあのキッカ大佐の部隊と鉢合わせとなるとは。全体的にはたしかに俺たちの負けだが、先様にデータが送られたようだし、全員が無事ならば大戦果だ。失点があれば後で挽回できればいい」
「はっ、反省すべき点は次に活かせればよろしいでしょう」
「うん」
と、アルセスたちもそれぞれシャトルへと帰還する。
「全機、帰搭します」
オペレーターの言葉にノックスとトーレスの緊張はほぐれる。
「終わった、かな・・・・・」
「ええ、まあ、さしあたっては」
「さてと、この場は俺に任せて」
と、トーレスはブリッジを後にする。
「お願いします」とノックスも返す
キッカたちも帰還し、全機が艦内ドックに収まる。MSから降りた全員、待ち構えたトーレスの訓辞を受ける。
「みんな、お疲れさん、対した相手が手強かったのは俺たちも意外だったけど、みんな落ち着いて当たっていたから無事に帰搭できた。今回反省すべき点は次に活かせればいい」
「はっ」と各自が返答する。
トーレスの傍らでキッカも訓示を聞いていたが。これは自分自身に対する説教とも受け止められた。
「それから、トーレスさん、1時間、いえ30分後にブリッジに上がります」
「うん、分かった」と、トーレスの了承を受けてキッカはドックを後にする。
キッカ、トーレスが離れて後ギルダスが口を開く。
「この戦いで改めて思ったが、おそらくキッカ大佐もこの戦乱のケリをつけたいと思っている。これは誰しもが想うことだけど、大佐のそれは俺たちよりも比べ物にならない。失礼ながら女性である大佐を男の俺たちも俺たちなりに支えなきゃならない。俺たちのできうる限り、全力を尽くして」
その言葉に全員、特にクムが静かに強く頷く。
そしてキッカは自室で横になり、自分に課したであろう使命についてあらためて思い起こす。ラルの息子との戦いをはじめ、多くの困難が自分たちに立ちはだかる。
「やっぱり、難しいのね」と、天井を見上げて想いを馳せる。
キッカがブリッジに上がったのはそれから20分の後だった。
次回予告
地球に降り立ったキッカたち。無法の街とかしたトウキョウの治安を収めんとする中、あらためて戦争の傷跡を知る。その傷をいやす術は果たしてあるのか。
次回機動戦士ガンダム・クレイドルエンド
忘れられた地で
君は、生き延びた先に何を見るのか。
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