のび太の堕落論:”ダメ”なことは悪いことなのか<本当は怖いドラえもん>
今回の記事について、まず結論から述べるに“ダメ”なままでいるのが悪いので、それなりの努力をしなければいけないということをまずとどめておいて。
あらためてドラえもんの物語を思い起こしてほしいのは、
「未来の世界から来たネコ型ロボットのドラえもんが、何をやらせてもダメな子であるのび太くんを助けるためにやってきて、いろいろな“すこしふしぎ”な活躍を繰り広げる」
というものである。
さてどうしてのび太くんをいわゆる“ダメな子”に設定したのか。それは藤子F先生が子供の頃は“ダメな子”であり、成長しても漫画を描くことしか能がないと自分でも認めていることでもある。しかしそんなダメな要素は何ものび太くんだけの問題ではない。
まず『オバケのQ太郎』のオバQは“ダメ”なオバケで何か活躍しようとするもいつも失敗やズッコケを起こしてしまい、『パーマン』ではひとまず正義のスーパーヒーローであるパーマン1号のミツオも一応の活躍はみせるがどことなく抜けている、すなわち“ダメ”なところが見え隠れしている。それは上司のバードマンも同様だろう。一応ヒーローの責任感はあるがやはりミツオとおんなじともいえる。
『21エモン』の主人公エモンの父が経営するホテル“つづれ屋”も時代に取り残されたいわば“ダメ”なホテルと呼ばれている。
果ては『エスパー魔美』主人公のマミもどちらかといえば“ダメ”の要素がある、まあ現代で言えば“ドジっ娘”と呼ばれても差し支えはないのだが。
そして我らがドラえもん、彼自身もダメロボットとして生を受け、様々な災難を経てから家の貧乏の原因たるのび太くんを助けるためにやってきたのだ。
それらの“ダメ”について挙げ続けた背景について、いわゆる高度成長期の昭和30年代を経て安定期ともいえる昭和40年代。何かとがんばりすぎていた日本において、そんなにがんばらなくても、言ってしまえばあまり能力が高くない、いわゆる“ダメ”な人間でもそれなりに生きていけることを描きたかった、それゆえに彼らを活躍させるお話を描き続けたのだ。そう、その当時は。
そもそも藤子F先生が生まれたのは昭和10年代、戦中戦後の少年期を過ごし、いわゆる高度経済成長期の青年期を経て漫画家として脂がのり切ったころに我らがドラえもんの連載を開始した。
そのドラえもんにおいて数多くのすこしふしぎなお話でユメを描き、多くの子供たちにユメを与え続け、楽しませ続けたことはくり返しながらも周知のことだけれど。
ともかくもいろいろな活躍でのび太くんの人生にも少しばかりいい方向にも向いてきた。そこからある意味おかしな方向に向かってきたのだ。
連載の中後期あたりからのび太くんが何やらの問題に巻き込まれドラえもんに助けを求めてひとまず問題を解決するも、そこからの悪ノリでかえってひどい目にあうといったパターンにはまってしまう。そして時には問題を解決しようとしてかえって悪いことと見なされてみんなからこらしめられる。たしかにこういったパターンはオバQやパーマンなどにはなかったシチュエーションだったろう。
加えて元“ダメロボット”のドラえもんも、のび太くんの“ダメ”を挙げていろいろとお説教したりして厳しい態度を取るくだりもある。そんなドラえもんだって自らのダメを克服したかどうかはさておき、やはり棚に上げてのび太くんのみに責任を押し付けているかなと勘ぐったりもするけれど。それについては『ションボリ ドラえもん』の巻にて「ドラえもんもダメなりにのび太くんの面倒を見ているんだ」といったくだりで説明は果たしていると言えるのだが。
それを踏まえてなぜそのようなお話を描こうとしたのか。やはり作者の藤子F先生もあまりよく考えていないきらいがあったかもしれない。言い換えれば純粋にマンガに取り組んで、言ってしまえばオバQのようにズッコケ話でまとめれば面白いかと思って、かつ小学館の小学1年生から6年生のいわゆる学習雑誌にて連載された手前、子供たちのためになるお話も描いてみようといったお節介の虫も騒いだこともあるだろう。
こうしてある意味惰性で描き続けているうちに知らずのうちにのび太くんのダメをこき下ろしたりもしたりと、ついには取り返しがつかない事態にまで陥った感もあった。
つまりは最初の理念も後半の事情を踏まえてちょっと忘れちゃったかもしれないけれど、それでも分かってくれている当時の読者たちもやはり見捨てられなかったゆえに、ひとまずは支持されたこともあるだろう。
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