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第1話:ホワイトベース最後の勇者(その3)<機動戦士ガンダム クレイドルエンド>

さてみなさん、今回のクレイドルエンドは、いよいよ士官学校を卒業し一士官として活躍するキッカが活躍の末に訪れる災難を経るまでをお送りする運びです。はたして彼女の運命、そしてこれからの彼女の道程を決める出来事やいかに、といったところで、それでは、ごゆっくり。
 
それから3年次以降も順当に、私に言わせればほぼ平穏に過ごすことができた。
それについて、自分を飾らないように心がけているからか、厄介む者はそうはいなかったと思うし、むしろ自分を慕う者さえ現れた。それはケントも同様だろうけれど、そういえばケントの側に一人の生徒が付き添うようになったか、名はエドワード=ライエル、ケントとは幼なじみで彼もまた士官学校の門を叩き今に至ったとか。
そんな彼と一度話をしたことがあった。
「あなたのような友人がいると、ケントも心強いわね」
「キッカ先輩もご友人を作れば、きっと心強いことになりますよ」
「そうね、いずれ考えておくわね」
その想いはそれからしばらくは心にとどめていた。
こうして私は主席を保ったまま卒業の日を迎えたが、ここに至ってつまらない議論がなされた。同列の主席での卒業は認めるところだが、登壇の際にどちらを先に呼ぶかで少しもめていたのだ。そのうち当人の意見を聞くことになり、
「表記順なら彼の方が先になっていますので、こういうのは事務的でも差し支えはないと思います」
と、私が告げて、彼ノックスが先に呼ばれることになった。後にノックスも、
「俺としてもどちらでもいいけど、早めにまとまるのはやはり有り難いな。ここは彼女の意見を尊重しようか」と了承したとか。
やはり私としても、彼に譲った方がカッコいいかなとも思ったが、そもそもつまらない議論ゆえに面倒くさかったからなのが本音だけれど。
ともかくも卒業式はつつがなく執り行われ、いくつかの手続きを経て私たちは晴れて連邦軍の一士官となった。
 
軍籍に身を置いた私が拝命したのは一小隊の隊長のポストだった、本当はロンド・ベルの編入を希望したかったのだけど、そういえば今のロンド・ベルも風当たりが強かったのも事実だし、それを鑑みても致し方がなかった。でもそういうのはブライトさんも承知していて、あえて別行動を取らせることである程度の自由な行動をとらせようとした。ある意味厳しい親心だろうとも理解して、というより思い込んでもいたが。いずれともに任務を遂行できるかとはひとかどの期待はしたけれど。
当時の情勢としては、ハマーンやシャアのネオ・ジオン軍は当然のことながら根絶には至らず、今や連邦軍のはぐれ者と化したティターンズ残党、ラプラス事変を中心に勢いづいた旧ジオン派のテロリストを中心とした者たちも加わって各地で争乱や破壊活動を繰り返し、それらの取り締まりが主な任務だった。端から見れば不本意なものだったけれど、これもささやかな平和につながればと思い黙々と任務にあたることにした。
とはいえ実際あたるとしても、実際部隊の体を成していない、悪く言えばゴロツキの集まり相手ということで、反撃を許さずに制圧できた。
初めての戦闘。
おそらくはこの戦闘で、私は、はじめて人を殺した。
それについては冷徹にはならないものの冷淡には対応できた。それでも家族のことを思うと多少は心は痛んだけど。
 
それからの戦闘で、私は順当に戦果を上げ中尉に昇進した。昇進に伴い部隊の規模も多少は大きくなり、兵員の補充に伴い新兵が配属されるということで私自身出迎えることとなった。
その新兵の少女、一度資料に目を通してピンと来た。その褐色の肌の少女、年は14歳くらい、今、私の目の前にいる。
「あなたがクムね、確かグリプス戦役でブライト大佐のもとにいたという」
「知って、らしたんですか?」
「やはりね、ブライトさんから連絡があったの。やはりこれもブライトさんの計らいかしら」
「どうやら、そのようですね」
「うん、言うまでもないけど軍隊というのは厳しいところよ。今すぐ慣れろとは言わないけど、分からないことがあったら、何でも私に相談して」
「はい・・・・・」
こうして新兵クムは私の部隊の一員となった。始めは私の従卒のような形でいろいろ学んである節だった。そのうち、敵部隊との交戦において、私は思いついたこともありMSのパイロットとしてクムを起用するに至る。
周囲の不安をよそにクムは発進した。
この戦闘でクムは6機のMSを打ち落とした。そのうち4機は手足を打ち落とし戦闘不能に陥らせたものであった。
帰還したクムを、私は多少表情を引き締めて待ち構えた。
「中尉・・・・・」
「お疲れさま・・・・・」
自分でも重い口調だと思った。
「あの、私、何か、まずいことでも・・・・・」
戸惑うクムに、私は首を振って応える。
「うん、どちらかといえばいい戦果だけれどね、あえて言えば戦いにおける後ろめたさは今は心にしまって、最善と思うことをすればいいの。この戦闘の結果は速やかに報告します。これもあなたのためでもあるのよ」
そう言ってクムの肩をポンと叩く。報告後、クムは伍長に昇進した。そして私も大尉へと昇進し、続いてケントとの共同作戦でそれぞれ少佐に、そしてクムも軍曹に昇進した。
 
そういえば事変の最後辺りに、ザビ家の忘れ形見のミネバが全世界に向けてのメッセージを送ったけれど。あれはともすればニュータイプの存在を否定するものかもしれない。しかしそれはむしろそう呼ばれた彼らを護らんがため、ひいてはスペースノイドとアースノイドの無用な争いを防ぐためのものであることは理解できる。
でもそのために彼らが武力を用いらんとするなら、私たちはそれを取り締まらなければならない。
人の可能性を信じる、それは正しいこと。それに対してミネバは一つの基準をつけようとする、それもまた危険な考えだから。
もちろん無制限というわけにはいかないけど、大きく羽ばたかせるだけの翼、いわば未来を創る翼はまだ人類には必要だから。それにしても・・・・・。
「・・・ニュータイプ、ねえ・・・・・」
そう思案したとき、クムが話しかけてきた。
「どうしました、少佐」
「ちょっと昔のことを思い出したのよ」
事実その時点、事変からニュータイプについて、続いて一年戦争のことを思い起していた。
「その一年戦争の終わりごろね、沈むホワイトベースからみんなが脱出したときに、私たちはアムロさんに“声”を発して導いたことがあったのよ。でも今はそんな力はなくなったかもしれない。でも時折何かの“声”は聞こえているけれど」
「それはカミーユさんも同じことだと思いますよ」
クムがそう応える。彼女が発した名は私も知っている名前だった。彼こそはロンド・ベルの前身、かつてのエウーゴのエースパイロットとして、そして、
「カミーユさんって、今アナハイムのMS研究班の主任の」
「はい、グリプス戦役の時、強力な敵を討ち取った時、倒れ際の反撃で精神を病んで、それから回復したとき力を失ったと聞きます。でも時々知り合いの“声”を聞くと言っていますから」
ひとまずこの言葉も心にとどめていた。いずれはカミーユ氏とはかかわるかと思いつつも。
 
そして迎えたその日、新たに配備されたガルダ級武装輸送艇“アウドムラ2”を前に私は、傍らのクムとともに新たな任務に臨むべく乗り込んでいった。幾ばくかの期待を胸に。
 
そしてキッカは闇の中にいた。
「・・・ごめん、クム、実は私、本当は世界の行く末のことなんて、あまり思っていなかったの、ただ、自分の死に場所を求めていただけだと。でも、そこは静かな場所だけど・・・・・」
 
はっと目が覚めた時、そこは狭く薄暗い場所だった。
「・・・私、まだ、生きてる・・・・・」
コックピットの中、爆発の際に何かのはずみで脱出機能が働いたのだろうか。
起き上がろうとするも、頭に鈍痛が疾る。脱出、落着の際におそらく頭を打ったのだろう。
何とかカプセルのキャノピーを開いて外に出た。そこは見たことのない浜辺、後に無人島と分かったが。
「ここは、流されたの・・・みんなは、どうしたんだろう・・・・・?」
 
 
次回予告
運命は彼女に味方をした。流れ着いた無人島にてキッカは生きる意味と歓びを知る。そして彼女と関わる人たちもまた、
次回、機動戦士ガンダム・クレイドルエンド『生きるということ』
君は、生き延びた先に何を見るのか?

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