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小説・聖闘士星矢VSセーラームーン(その19)

第10話:聖闘士の誇り

新たなる敵、イタカ・ウェンディゴの突然の襲来で味方の一人、ジュネが倒され一輝たちもその攻勢に身構えるのみだった。

「やはりツァトゥグアでは荷が重かったか、あの神に近き男とうたわれた乙女座のシャカと互角に渡り合ったフェニックス一輝ならば無理からぬこと、この俺の相手ならば不足はない。何なら4人がかりでかかってもいいのだぞ」

それぞれイタカの不敵さに緊張を禁じ得ない4人、静かに身構える一輝、憤りを隠せない瞬、そして不安げなマーキュリーとヴィーナス。しかし一輝はわずかに表情をやわらげつつ応える。

「フッ、聖闘士に4対1の闘いはない」

「ならばお前が相手になるか、いや・・・・・」

イタカの言に、なぜか一輝は踵を返し足を進めんとする。

「行くぞ」

「えっ・・・・・」

「行くぞ、ジュネの闘いを無駄にするな!」

「あ、う、うん・・・・・!」

一輝の言葉に瞬も後についていく。その際倒れたジュネを気にしつつ、後の二人もそれに倣う。その様を何故かイタカは追わなかった。

「なるほど、ただでは倒れぬということか」

イタカの足元には鞭が巻き付けられていた。

「・・・ここは、私が踏み止まらなきゃいけないからね」

そしてジュネもゆっくりと立ち上がるのだった。

「身を挺して受け止めたか、たしかに己のダメージを最小限にとどめていたきらいもあったな」

「とにかく、あんたの相手は私だよ」

立ち上がりざまに鞭を棒に変え、ジュネも身構える。

「よかろう、暇つぶしにはもってこいだ。もっとも奴らには別の相手が控えているがな」

「瞬や一輝さんなら、大丈夫さ」

そういうや、まずジュネが飛び掛かる。対するイタカもジュネの棒さばきを巧みにかわしつつ、ジュネも時折飛び出すイタカの棒を巧みにさばきつつ、まずは一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

一方で先を急ぐ一輝たちの前に一人の人物が待ち構えていた。

「なるほど、貴様が次の相手というところか」

「いかにも、わたしはクトゥルフの一柱、ヨグ=ソトース」

「チェーンに反応が、でも、みんな待って」

「これって、マズいんじゃないの」

「ここは、うかつに動けないわ」

すでに一輝たちの周りには無数の鈍い光の粒がめぐらされていた。

 

戻ってイタカと対峙するジュネ。ひとまず押されているイタカも一応の感嘆を見せる。

「なるほど、単なるブロンズではないようだな」

「ええ、私だって伊達に修行はしていないよ」

実はジュネも星矢たちが十二宮の戦いを繰り広げた後、彼女自身も星の子学園で働く傍ら、富士の奥地で修行を行っていた。業の鍛錬はともかく、富士の冷気が彼女のコスモを高めていき、いつしかその実力も星矢や瞬にも引けを取らないほどになっていたのだ。

「言っておくが、俺はクトゥグアやハストゥールのように、意のみで闘うことはないが、お前の実力がここまでとは、俺とても本気を出さざるをえん」

態勢を整え、イタカが構えだす。両手の棒に冷気が集まっていく。

「今こそ受けよ、この俺の意と業、神の力を」

後ろに構えた両腕を突き出しざまに巨大な冷気の渦がジュネを襲う。ジュネもロットを回転させつつ防がんとするが、次第に押されていき、ついには雪と氷に覆われてその身を封じられる。

「何ものも凍てつかせる吹雪と氷、これぞ人の恐怖を呼び起こすもの。本来ならばフェニックスとアンドロメダとの仕合を楽しみたかったが、お前との仕合も俺を大いに楽しませた・・・・・」

イタカがジュネに近付く。氷の像と化した彼女に最後のとどめを刺さんとするために。おもむろに棒を構えるイタカ、しかし、

「・・・まだまだ、勝負は、ついていないよ」

氷の像が鈍く輝いたかと思えば、ジュネの周りから像にひびが走り、やがては氷を砕いていく。

「やはりただでは倒れぬか、しかし今のでお前のコスモはほぼ使い果たしたのではないのか」

「そうかもしれない、でも、ここで倒れたら、私の聖闘士の誇りが、許さない」

「そうでなくてはな、俺もこの闘いを待っていたぞ」

再び業と業の攻防が始まる。今度のイタカは両手の棒術はともかく、それにまとう冷気を駆使して攻めてくる。はたしてジュネもこれには防戦一方に陥ってしまう。だが不思議と動揺はない。それどころかアンドロメダ島での過酷な修行を瞬とともに過ごした日々を思い起こしつつ、何かの“時”を待っているきらいがあった。

「私も、最後まで闘えるかな、シャイナさん、一輝さん、そして、瞬・・・・・」

そんなジュネの様に、闘いに高揚しつつイタカも何やらに気が付く。

「ここまでにコスモを高めんとするのか、なれば俺もそれに応えてやろう。この至近距離ならば」

イタカが先の業を繰り出さんとしたまさにその一瞬、

「さしもの、あんただって、いくぞ、カメレオン座のジュネの業、シャイニング・エキステンション!」

両手で構えたロットの先端に込められた光がイタカを貫く。貫かれた光は限りなく広がっていく。そしてジュネもイタカの業に吹き飛ばされてしまう。

 

その時瞬が何かを感じとる。

「ジュネさん・・・・・」

その憂いを込めた表情にマーキュリーとヴィーナスも心配げに見守っていた。そして一輝も、静かに呼び掛ける。

「・・・ジュネ、死ぬな・・・・・」

 

ロットに貫かれつつ立ち尽くすイタカ。しかしその表情はどこか満足げだった。

「なるほどな、己の肉体を超越し、神の高みまで精神を至らせしむる、お前もまた、真の聖闘士だったか。ここは、負けを、認めよう・・・・・」

そしてその身を氷の粒と化し風とともに消えていく。残ったロットも元の鞭に戻っていく。

ややあってとある人影がジュネに駆け寄ってきた。後から乗り込んだシャイナだった。

「どうしたジュネ、しっかりするんだ」

「ああ、シャイナさん、なんとか、一人を倒すことができました。私に構わず、瞬たちを・・・・・」

「何言ってるんだ、星矢も言っただろう、必ずみんな一緒に行くんだ。ここは引きずってでも連れていくよ」

と、先に拾い上げた鞭とともにジュネを抱え上げ、シャイナも先を進むのだった。

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