第1話:ホワイトベース最後の勇者(その2)<機動戦士ガンダム クレイドルエンド>
さてみなさん、今回のクレイドルエンドは、士官学校に入学したキッカがいわゆるシャアの反乱を通じて、悲嘆から立ち直る様を中心に、後にブライトとの対話に至るエピソードをお送りする運びです。それでは、ごゆっくり。
ケント=ノックス
彼の第一印象は“最小限の努力で最大限の能力を発揮できる真のエリート”といったものだった。なるほど、あの時がむしゃらだった私とは異なった印象を与えたものだった。
もっとも、後に分かったことだけど、彼のほうも私のことを、
「常に最大限の努力を惜しまず自己の能力を高めている。自分に及ばないのはこの点だ」
と思ったものだったが、
いずれにせよ、私と彼は常に競い合うライバル同士と周囲に見られていたのだった。
さてここで、キッカの回想から離れ、この作品のもう一人の主人公であるケント=ノックスについて説明しなければならない。
後にキッカが“勇”の人と称されるのと合わせて“智”の面で彼女を助けた彼。
彼はもともと軍人とは無縁な家系に生まれた。父は大学教授のクラーク=ノックス、母は弁護士のアンナ=ノックス。兄弟は姉3人がいて、彼は長男であり末っ子である。
幼い頃から感受性が強く、かつての一年戦争終結の時、父親にその後の戦乱を幼心なりに予感したことを告げるのだった。その後もいろいろと学問にいそしみ、両親も彼の将来に期待をしていたのだが、
15歳になったときにケント自身は今なお続く戦乱を自分なりに鎮めようと軍人を志し、ナイメーヘンの士官学校の門をくぐった。
両親は当然驚いたが、一人息子のたっての願いならば拒むべき理由はなかった。あと娘婿がそれぞれ大学の教え子と母の助手だったことも一助となっていたのだが。
こうしてケントも軍人としての第一歩を踏み出すこととなる。
再びキッカの回想に戻る。
士官学校において、常に主席の座を争う形となった彼と私。ライバル同士と目される中でも、たしかに私も彼を励みに勉学と訓練に勤しみ、いつしか自分なりの使命感も芽生えつつあった。
こうして、一年次は大過なく過ぎて、二年次運命のあの戦役が起きる。
シャアの反乱、後に第二次ネオジオン戦役と呼ばれたその戦役は、学校内外でもかなり騒然となっていた。
結局、戦役にてシャアの目論みは失敗に終わったけれど、連邦軍、ことにロンド・ベルはまさに真の勇者というべき一人の人物を失った。
その日、私はすべての講義を休み、その夜を自室で明かした。
次の日の朝、私は重い頭を持ち上げるように起き上がり、ゆっくりと洗面台に足を運ぶ。鏡に映った私の顔、表情は重く目は少し赤い。
「情けない顔・・・・・」
鏡に映った自分の顔を見てから、一気に洗面台で顔をすすぐ。
「もう、悲しんでなんかいられないぞ、キッカ=コバヤシ・・・・・」
そして表情を整え、午後の講義から出席することとなった。そこの教官が自分を見るなり声をかける。
「うむ、もういいのかね、コバヤシ候補生」
「はい、申し訳ありませんでした」
「ああ、病欠だと届いているよ、念のため保健室に確認したまえ」
おそらく誰かが体調の不良と届けてくれたのだろう。それはひとまず信頼されているだろうというのは自惚れだろうけれど。
いずれにしても昨日の休みについては理解はされていたかもしれない。その反面講義の遅れについては一応覚悟を決めてこれからを臨んだけれど、そう影響はなく遅れは取り戻せ、この年も主席の座にとどまった。私もやればできるかと半ば自らに感心して、一方で少なくともケントには失望されなかっただろうとも感じていた。
いずれにしても、これからアムロさんの分まで、歩まなければならない。それがとんでもない思い上がりれだろうとしても。
明けて三年次のある日、その日の授業を終え、自室へと戻る支度をしようとしたその時、教官の一人が呼びかけてきた。
「キッカ=コバヤシはいるかね」
「・・・何か・・・・・?」
「君に、面会だ」
その言葉に私は半ば驚いた。今まで連絡もなかったので意外だったが、私は自分でも冷淡化と思いつつこう切り返す。
「申し訳ありませんが、引き取って下さい。今は誰にも・・・・・」
「・・・ブライト=ノア大佐が、至急の用だと言っているのだが」
「・・・そう、ですか・・・・・」
ひとまず談話室へと足を運ぶ。そこにはたしかにブライトさんがいた。
「久し振りだなキッカ、元気そうでなによりだ。しばらく見ないうちに、ずいぶん大きくなったものだ」
「大佐も、お変わりなく」
「ブライトでいいさ、本当言えば、急用というのは方便で、会いたいのはあくまで私用だったんだ」
「え、ですが・・・・・」
「まあ、座ってくれ」
「はい・・・・・」
勧められるままに向かいの席に座る。
「さて何から話したらいいんだか・・・そうだな、実は俺も、お前が軍人になるのは反対だったんだ」
予想していたこととはいえ、やはりこの言葉は突き刺さる。
「・・・いや、少し訂正すれば、俺たちがやり残したことを、お前に押し付けることはしたくなかったんだ」
「・・・はい」
実はブライトさんも養母から士官学校に入書きしたいきさつと事情を伝えられていて、先のシャアの乱を機に今回の面会と相成った。それでいて今の心情をくんで、今の学園生活について聞き、それを中心に話を進めてくれた。
「そう不自由はしてなかったから安心したよ。「聞けば、御大層な呼ばれ方をしているじゃないか」
そのうちにその後大層な呼ばれ方“ホワイトベース最後の勇者”についての話題が持ち上がった。
「はい、多少恥ずかしいのですが、だんだんと慣れたのも事実です。あまり気にかけても仕方がないとも思っていますが」
「やはり強くなったんだな、その点は俺たちも及ばないな」
一瞬表情をほころばせたが、ひとまずは首を軽く振りさらに応えた。
「私もだんだん大人になっていく。その時に大人としての義務を果たさねばならない。そのことを考えることは自惚れでしょうか」
「たしかに、自惚れだな、しかしそれを自覚してこそ大人としての自分がある。そのことを忘れずに、後悔のないようにな」
「はい、ありがとうございます」
と、浮かぶ涙を指先でぬぐい「それでは」と敬礼とともに部屋を後にする。対してブライトさんも立ち上がっての敬礼で見送ってから、再びソファーに腰を下ろした。
「そういえばもう一人、俺に会いたいという者がいたな」
と腕を組んで独語したとか。
退出ぎわに廊下で佇んでいたケントが声をかけた。
「ブライト大佐に、会ったようだね」
その言葉に、私も軽い笑顔で応える。
「あなたも、ブライトさんに用があるの」
「いや俺は、顔を見たいと思ったけど、たしかに会いたいとは思うけどね」
「だったら会うべきよ、ブライトさんにはご迷惑だろうけど、そのくらいの時間はあるはずよ。きっと有益な教えが得られるかもしれないから」
「ああ、すまないな」
ひとまずの好意を快く受け止めただろうケントに気を掛けつつ、私はこの場を離れた。
今一度キッカの回想から離れ、その後のノックスの行動を述べたい。
キッカが場を離れてからややあってノックスも談話室に足を運ぶ。
軽いノックから「どうぞ」とブライトの声が届く。
部屋に入るとブライトがいまだソファーに座していた。やはり自分を待っていたのか。
「やあ、君が、ケント=ノックスか」
「はっ、ケント=ノックス候補生です」
敬礼とともに応えるノックスにブライトはあらためて席をすすめ、その後彼にとっては有意義な会談が執り行われるにいたる。と、ひとまずは述べるに留めておくのだが。
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