第1話:ホワイトベース最後の勇者(その1)<機動戦士ガンダム クレイドルエンド>
人類が、増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに1世紀、
地球の周りの巨大な人工の大地は人類の第2の故郷となり、
人はそこで子を産み、育て、
そして死んでいった・・・・・。
UC 0099
文字通りの危機的状況であった。
独立機動部隊、通称コバヤシ隊のアウドムラⅡは敵の襲撃に遭っていた。
敵はコバヤシ隊を二部隊で挟み討ちせんと待ち受けたが、コバヤシ隊司令官、キッカ=コバヤシ少佐に察知され、まず左翼部隊を部隊のエースであるクム軍曹を中心にあたらせ各個撃破を試みた。見事敵を撃破したが、これあるを悟った右翼部隊が何としてもコバヤシ隊を撃破せんと、執念の突撃を仕掛けたのだ。
ここ数年、いわゆるラプラス事変で決起した袖付きを筆頭とするネオジオン残党に、永らく雌伏してきたティターンズ残党も含めた勢力がテロリストと化し各地で活動を繰り広げ、連邦軍の精鋭部隊が鎮圧に乗り出してきた。キッカ=コバヤシ率いるいわゆるコバヤシ隊もその一つであったのだ。
そのコバヤシ隊、何とか右翼部隊の半数を撃破できたものの、まさに満身創痍の状態であった。
「被害状況は」
「なんとか撃破できましたが、この艦も、無事帰還できるか・・・・・」
「このままじゃ、全滅か、あるいは、艦を棄てろっていうのね・・・・・」
「申し訳・・・ございません・・・・・」
オペレーターの言葉に苦味が加わる。キッカの表情にも苦々しさが重なる。無論自分の不甲斐なさに対しての苦みであった。
「ええ、みんなには申し訳ないわね。でも・・・・・」
キッカの目は前を見据え、ふとささやかに独語する。
「・・・カツや義父さんも、生きることを望んでいる。だったら・・・・・」
無論それを聞き取ったものはいなかった、そしてすべてのクルーに告げる。
「クムが戻ったら、最後の指示を出します。みんなをドックに集めて」
ややあってクムのジェガンが戻ってきた。激戦を耐えかね、無傷ではいられなかった。
「ただいま戻りました、少佐」
「お疲れ様、といいたいけど、この艦の状況も分かっているようね」
「・・・はい・・・・・」
このままでは部隊はおしまいだ、誰もがそう顔に書いていたようにキッカには見えた。
あらためて今の戦力を確認する。おそらくジェガンの飛行ユニット“ゲタ”はもう使えず迎撃は不可能だろう。
「動かせるのはジェガン1機だけ?」
「あとはみんな撃ち落とされました。この1機も片足をやられてしまい」
つまりは満足に動かせる状態ですらなかったのだ。
「そいつは、困ったわね」
「少佐、もう1回行かせて下さい」
メカマンとの会話にクムが割って入る。心なしかキッカの表情がほころぶ。やはりそう来るかと思い、それに対して頼もしさもあるが、それだけに申し訳なさも募っていく。だがキッカが告げたのは、
「ありがとう、クム」
と感謝の言葉だった。しかし続いて何かに気付いたかのごとく、
「クム、後ろ!」
「えっ・・・・・!」
振り向いたクムに、キッカが首筋に当て身を繰り出す。
「しょ、少佐・・・・・」
クムはそのまま気を失い、彼女を抱えつつ全員に告げる。
「最後の指令を告げます。このままランチで全員脱出し、近隣の基地まで逃げ延びなさい」
「え、ですが、少佐は・・・・・?」
「ここは最後まで食い止めます。みんなが生き延びればこの戦いに勝つことができるから」
できる限りの笑顔で応えるキッカ。異議を挟む者はもはやいなかった。こうして脱出艇に全員が搭乗するのを確認してから、自らはジェガンに乗る。
「これで最期まで戦い抜けるかな、カツ、ハヤトのお養父さん、そして、アムロさん・・・・・」
自動操縦のアウドムラⅡの天井を破り、脱出艇が飛び立つのと同じく、来襲した敵部隊が接近してきた。キッカはその脱出艇を狙わんとする敵を重点に狙いを定める。
「みんなを行かせるために、余裕はないのよね」
1機、また1機と、キッカのジェガンは敵MSを撃破していく。
そしてクムたちを乗せたランチが視界から消え、最後の敵を撃ち落としたまさにその時、アウドムラⅡは機関部から爆発し、ジェガン内のキッカの視界は閃光と爆炎に包まれ、キッカ自身も光に包まれた。
「あの爆発で、私の人生が終わった、はずだった。
でも、それはむしろ始まりだった。私という物語の、新たなる始まりが・・・・・」
UC 0089
ハマーン=カーンの第1次ネオジオンとの戦いが終わり、そう経っていない頃から、キッカの記憶をたどる旅が始まる。
グリプス戦役に先立ち、エウーゴとカラバのジャブロー侵攻とに合わせ、私たちは軟禁先から脱出し宇宙に上がるべく旅立ったが、結局その直後の混乱から結局かなわず、その代わりということでセイラさんの財団~たしかジオン=ズム=ダイクンの妻の名を冠した~のとりなしで日本・カルイザワに住居を得ることになった。今になってあの時セイラさんの助けがなければ、当時監視下になったマン・ハンター~当然ティターンズの影響下に入っていて、崩壊後はひとまず下火になっていた~にいいように処分されることだったかもしれなかった。
いずれにしてもカツと養父ハヤトを失い、誰もが傷心を癒やす落ち着き先を得ることができたのだが。
週末、当時通っていた学校の帰りには博物館に立ち寄るのが当時の日課になっていた。
その目当てがかつての一年戦争で活躍した、RX-78・ガンダムだった。
そのMSの展示品(レプリカ)に時間が許すまでそこでたたずむと不思議と気分が落ち着くものだった。
しかしふとこう思うこともあった。
「RX-78・ガンダム。総てはここから始まった。
ガンダム、あなたはこの地球圏の平和を守る守護神なの?
それとも、戦争の影に怯え続ける、連邦の道化人形なの・・・・・?」
UC 0092
かつての戦争を通じてのガンダムへの想いは、次第に自分を軍人の路へと走らせた。当然ながら家族は、特にレツは私の軍への志願を必死に止めようとした。
その日、簡素ながら荷造りを済ませた私をレツが説き伏せようとする。
「だから、もう一度考え直してくれよ、なんたってお前が軍人にならなきゃいけないんだ、今また戦争が起こるってわけじゃないだろう、こういうのはブライトさんたちに任せればいいんだ。それをお前が入ってきてどうしようっていうんだ・・・・・」
「ごめんなさい、もう決めたことだから・・・・・」
その言葉にレツも言を止めた。やがて士官学校へ向けて、迎えの車が到着し、私はそれに乗り込んだ。
去りゆく車を前に、レツは力なくひざを落とす。
「どうすればいいんだよ、カツ、養父さん・・・・・」
そして家の一室ではハヤトとの間に産まれた幼い子供を抱きかかえたフラウが肩を震わせていた。
こうして私はナイメーヘンの士官学校に入学する運びとなった。家出同然で入学したいきさつがあってか、こと学業に関しては手を抜くことが私自身許されなかった。
ところが自分自身驚くべきことに、その学業に関しては理解力が早かったか、何と主席に並ぶことができた。そして何ヶ月目にもう一人の主席の生徒と顔を合わせることとなった。
その彼との出会いが、私の人生の転機となろうとは・・・・・。
その日の午後、戦略論の講義のために別の講義室へと足を運ぼうとしたとき、渡り廊下で偶然にも彼と出会った。長身で端正な顔立ちの青年。それが始めての彼との出会いだった。
先に言葉を発したのは私だった。
「あなたが、ケント=ノックス・・・・・」
すると、彼もこう応える。
「君がホワイトベース、最後の勇者か・・・・・」
一瞬、その言葉に私は反応した。少なくとも不快ではなかったけれど、あの時射抜くように彼を見たので彼にはそれなりに感じたのだろうか。
私は足早に彼から離れて通りすぎた。あのあと彼は片手で頬をポンと叩きながらこうつぶやいたという。
「反撃の覚悟は出来てたんだが・・・・・」
あの時私もこのように思った。
「彼が私のことを知っているように、私は彼のことを知らない。今回は、負けにしておくか・・・・・」
ふしぎと顔がほころんだ、そういえば入学以来笑顔を作らなかったなと感じていた。
それが私と彼、ケント=ノックスが知り合った刻だった。それがどんな意味を成すか、今は誰しもが知る由もなかった。
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