人間・藤本弘の死、漫画家・藤子F不二夫の死(後編)<本当は怖いドラえもん>
さて前回『のぞみ実現機』において藤子F先生がユメをかなえることがままならないことについての「悲鳴」あるいは「心の叫び」を込められたと勝手ながらも評した。
そこで今回も前回の分を含めての結論を述べることにしたい。まずはこのお話から。
『絶ちもの願掛け神社』
この日もジャイアンたちにいじめられたのび太くん。何とか仕返しをしようと頼むも、その前に心と体を鍛えろとお説教をするが、それもままならないとさらにへこんでしまう。そこでドラえもんは『絶ちもの願掛け神社』という道具を出すのだが。
~それは何らかの“願い”を1年間断つことによりかなえるものなのだが、それは「自分自身の好きなもの、好きなこと」でしか効果のない代物だったのだ。
それについてはまず好きなものやことの基準はあくまで本人次第のすなわち曖昧なもので、要は信仰心を願いに託すものなのだから。この道具も信仰心を科学に置き換えた物だともいえるけれど。
それに先立って、仕返しついても道具に頼ること云々でお説教しているが、ひみつ道具はあくまでも道具で、前にも述べたように道具をちょっとの知恵と工夫でなんとかなったものを、そのプロセスすら否定してまずは自分の力で何とかしろという。これは『さようならドラえもん』のオマージュとも読めるけれど、どうして今更このような事を言うのかという思いもある。
さておき後半では、いくらか断ち物を考えていくうちなんとか決めてからジャイアンたちをやっつけようとしたものの、途中ママがゴミ箱とまちがえて残りの断ち物の札を納めてしまった。はたしてのび太くんは今後1年間ほとんど好きなことができなくなったそうな。
このオチとしては『コンチュー丹』や『しりとり変身カプセル』等のズッコケのお約束オチとも取れる。たしかに次回までに「なかったこと」にすることもできるけれど。それにしても今後1年ほど好きなことができずに、さらには“願い”による仕返しも一度きりだろうから、それに対する「仕返しの仕返し」でジャイアンたちにまたいじめられ続けることを考えれば、のび太くんならずともとても耐えられるものではない。
つまりはこのお話も最後期のお話の上での、藤子F先生が思わず発した“弱音”とも取れるだろう。たとえば冒頭のお説教を取っても、そもそも「いい目を見ようとする」などとはじめからそんな気持ちで描いたはずではないはずだ。
いずれにしても、お説教やそれに先立ってのジャイアンたちの悪意を含め、その時の先生自身のやりきれない気持を思えば納得はできる。
何らかの“のぞみ”をかなえようとしても結局それがすべてかなわない『のぞみ実現機』
“ねがい”をかなえようにも結局好きなことをあきらめなければならない『絶ちもの願掛け神社』
それはもはや“のぞみ”や“ねがい”を叶えられない自分、もはや好きなことを満足にできない自分。それらのくやしさ、やりきれなさを込められての本音がこれらの作品に込められたのだろうと読める。それは言い換えるのならば、ご自身の死を予感してのことかもしれないといえば今となっては暴言だとも言い切れないだろう。
しかしこのままご自身が死んでドラえもんもこのまま終わらせたくはないとの想いから、まず90年代から日常の問題よりも胸踊る冒険活劇を描いた大長編を専らに描くこととなり、一方でご自身のプロダクションのアシスタントの皆さんにもそれらを通じてドラえもんの作風をできる限り伝えたのだった。自分の死後もドラえもんがいつまでも続くように。子供たちにはドラえもんはともかく、普段は頼りないけれどいざとなれば活躍するのび太くんが必要とするように。
時にはしくじることもあるけれど、身に降りかかる悩みや問題を、ドラえもんの道具と自らの創意工夫で何とか解決するのび太くんや、いろいろといじめや迷惑をかけてくるジャイアンやスネ夫を時には返り討ちにあうこともあっても懲らしめつつ、いざとなれば困った時には助けてくれる。そしてしずかちゃんにはやはり出木杉くんとなにかと比べられるけれど、やはりいいところを見せて、ちょっぴりいい目で見てくれる。それこそがドラえもんのあるべき姿だとヒネくれた編者として率直に思っている。
こうして現在、多様なマンガやアニメが世に出ている中、ドラえもんも子供たちにユメと希望を与え続けていることは、今さら述べるまでもないことだろう。
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