誰がためのきみのため<本当は怖いドラえもん>
さて前回、ドラえもんの意地悪について、本来はのび太くんを鍛えるためであるはずが、述べたお話はその脱線した形ということで紹介した。
今回のお題もある程度のナンクセとも受け止められるやもしれないけれど、編者的にも心に引っかかったのであえて述べたい。
それは時折、ある程度ドラえもんあたりがのび太くんに困難(言ってしまえば試練みたいなもの)を与える際に「きみのため」という文言が使われる。
これについては本来の意図は、その人が―この場合はのび太くんだが―励まされ奮起を起こさせ、がんばりきった様を見て「よし、ボクも私もがんばろう」とするものだったのだが、実際のところその文言が使われつつ、しごかれるたびに反発を起こして悪態をつき自滅するオチにつながるといった、結局は「がんばらないとこうなりますよ」という「見せしめ」を描いたとんち話の要素にとどまってしまった。
ひとまずはその代表格たるお話を述べてから主旨を述べたい。
『無人島の大怪物』
ある日みんなで無人島で泳ぎに行くことになったが、一人だけ泳げないのび太くんだけは『スパルタコーチ』で特訓することになる。
はたして引っ張られるのみで溺れっぱなしののび太くんにドラえもんは「きみのためだ」と言ってみんなのところへ行ってしまう。
たまらずのび太くんも機械を壊して切り抜け、代わりに、先にドラえもんが出したっきりの「変身リング」で仕返しがてらにいろいろイタズラをしたのだが、最後たまたま恐竜に化けたトカゲに仰天しみんなの笑い者となったそうな。
~このお話は後半の大騒ぎが主題となっているものだけれども、やはり前半の悪戦苦闘も忘れてはならない。もともと泳げない人を無理やり泳げるように引っ張りまくれば、泳げるどころかかえって溺れてしまうのはスポーツ生理学からも当然の帰結である。やはり基本をおろそかにしては上達しないものだから(『家元かんばん』より)。
とどのつまりはいくらダメの克服といっても、有無を言わさずシゴいて無理強いをさせるもやはりうまくいかないのはあたりまえで、その紆余曲折の末のズッコケに至るプロセスがギャグとなっているのが実情ということで。
いくら「きみのため」と言っても、やはり本人がその気にならなければ意味がない。ましてスパルタ教育、それに先立つ軍隊教育というのは確かに効果も期待できるが基本的には「弱者切り捨て」に尽きるのではないか。更に述べるにその「切り捨て」の要素とそれに対する反発が後半あたりの悪態パターンにもつながったのかなと思う。
結局その「きみのため」というのは、その後の悪態でさえぎられ、本来の意図の「(読者たる)きみたちのため」までに伝わらなかったのではないのか。
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